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レバノン人道支援レポート

                                                                        【11月21日 報告】
                                                                      ** 報告者:太刀川 良一 **
     
                (11月21日現在、レバノンでは日本人スタッフ2名が活動しています。

 
 
 


レバノン人道支援 現地活動レポート1

 


 最近、ドライバーのムニエル氏とバッグギャモンを楽しんでいる。バッグギャモンにはいくつか楽しみ方があるが、彼とは比較的ルールの簡単な「31」というゲームをする。詳しい説明は省くが、文字通り相手の残りコマの合計が31になったら勝ちというものだ。この戦いがなかなか熱い。いい大人が真剣勝負で、「お前はサイコロの目のラッキーだけで勝っているな」などと、お互い相手をからかいながら、時には罵りあいながらゲームは進む。ちょっと目を逸らすと、進めるコマの数を誤魔化したり、サイコロの目を誤魔化されるため、気を抜くことができない。
 しかし、この誤魔化しが悪いことかというと、アラブでは日本人のような罪悪感はないようだ。「お互いルールに則ってゲームをやってますよ。けれども、ルールを理解していなかったり、ちゃんと相手のプレーを見ていないのは、あなたが悪いんですよ」といった感覚だろうか。スポーツの試合でも同じだ。日本人は反則にちょっとした罪悪感を抱くが、アラブのプレーヤーは、審判が気づかなければ、いくらでも反則をやってくる。それがばれても、大げさなポーズで、いかにも自分は悪いことはしていないと訴える。
 恐らく、この部分を多少なりとも理解しないと、アラブ人と付き合うことが非常に疲れることになってしまう。





 ここまでの話では、ムニエル氏がアラブ人の典型のように思えてしまうが、実はそうではない。彼はアラブ的な顔に非アラブ的な顔が、否、非アラブ的な顔にアラブ的な顔が同居する、なかなか稀な男なのだ。はっきり言って、彼は優秀である。アラブには高学歴の人材は多いが、大概は議論好きで責任のない案を述べたり、どうでもいい文章をきれいにまとめたりするのがうまいだけだ。しかし、「現場でそれをやってみなさい」というと、「それは私の仕事ではないから」と言って、すぐに逃げてしまう。ムニエル氏は、実行可能な案を直ぐに現場で実行できる、非常に貴重な人材である。

 実は彼は、常に従業員を10〜20名雇用するレンタカー会社の社長さんなのだが、「自分が机に座って指示するようになったら、俺の会社はこれ以上大きくなることはない」と言い切る。今回の事業では、お世辞抜きで彼の存在は大きいと感じている。多くが空間を感覚で捉えることのできないアラブ人の中にあって(街角で目的地を尋ね、どれほど間違った方向をおしえられて、日本人が怒ることか)、地図を的確に読み、スムーズに目的地に達する。横に座って四六時中行き先をチェックする必要もないので、安心して乗っていられる。

 ムニエル氏には今回はフィールド・オフィサーとしても働いてもらっているが、これまた頼もしい。非常に社交的な性格なので、見積書の取得など、業者に関する情報を行った先々でもらってくる。「この内容で今日中に欲しい」と言えば、昼飯も食べずに朝から駆けずり回る。おかげで昼食抜きを付き合う羽目になる方は、いい迷惑であるが。石油ストーブの業者を探しているときに、元売り工場の場所を調べてきたのには驚いた。商売上手のアラブ人は、そんなこと決して買い手にはおしえないはずなのに。
 現場の調査に行っても、彼を見ているとなかなか面白い。効率よく聞き取り調査をするために、彼には予め聞き取り事項を記した調査シートを渡してあるのだが、彼は単に質問だけするようなことはしない。挨拶の前置きは長いし、仕事以外の話も長い。しかしこういった雑談が、当方に対する相手の信頼を高め、色々な協力を得ていくことになる。
 シーア派地域に行けば、彼は自分がパレスチナ人であることを話さない。ヨルダン人で通すのだ。パレスチナ人に好意を持っているスンニ派の人のところに行けば、積極的にパレスチナ人であることを利用する。キリスト教徒のところに行けば、宗教の話からレバノンの政治情勢、対イスラエル情勢など当たり障りなく話題は豊富である。

 ある学校長の家を何回か訪問したところ、その校長がとてもムニエル氏を気に入り、ムニエル氏には妻がいると言うにもかかわらず、自分の娘を二番目の嫁にしないかと言い出した。この家では行く度に丁寧なもてなしを受け、その度に娘の話を出すので、校長はいたって本気なようである。そのことで電話までしてきたのには笑ってしまった。
 ここまでの話では、自分とムニエル氏は、「日本的」に非常に仲良く仕事をしているように思えるかもしれないが、実は毎日のようにお互いの仕事や態度について文句を言ったり、相手を茶化したりしている。不満があれば、お互いそのままストレートに出すので、傍から見たら喧嘩をしているようにも見えるはずだ。これが「アラブ的」な仲の良さと言えなくもないが。
 毎朝道端で飲むコーヒー一杯のお金を今度はどちらが払うかといったことで、「お前は守銭奴か!」などと相手を罵りながら、今日も仕事に向かっている。
 よく考えればバッグギャモンのときと同じである。


ムニエル氏

                                                                                 つづく

 
 

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