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報告者:桑山紀彦
精神科医、上山病院、診療科長
日本国際民間協力会 スーパーバイザー
はじめに
日本国際民間協力会(NICCO)が行っている心理社会的ワークショップ(Psychosocial
Workshop)は、その有効性を実証するために始める前(事前:Pre)と終わったあと(事後:Post)にさまざまな心理テストを用いてその評価の指標としている。
別紙にて「トラウマ質問紙」の結果は第一ケア・グループ(8月3日〜9月25日に実施)において、著明なスコア値の低下がみられ、第二ケア・グループ(11月2日〜11月24日に実施)でも相当程度の低下がみられた。これはすなわちこの事業によって子どもたちの心の中のトラウマやPTSD(Post
Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)が低減したことを示しており、ケアの有効性が実証された。
一方、それを裏付けるために言語的な障壁の少ない非言語的(Non-Verbal)アプローチも必要である。そのため投影法(Projective
Type)として、バウムテスト(Baum Test)と風景構成法(Landscape Montage Technique:LMT)を用いて、事前と事後の変化をみた。
結論
バウムテスト、風景構成法の両テストにおいて第一ケア・グループにおける著名な改善がみられ、この活動による心のケアの有効性がさらに実証された。
方法論
1)バウムテスト
「1本の実のなる樹を描いてください」と言うだけの実に簡便な投影型検査法。1949年にドイツのコッホらが開発し、世界中で用いられる描画心理テストである。実の数や占有面積、葉の茂り具合やそれを支えるはずの幹とのバランス関係などを見ながら、総合的に判断する。
主に、内的なエネルギー状態、精神的な落ち着き感、夢や希望の保有状態などを読み取るものである。今回は事前と事後に同じように描いてもらった。
2)風景構成法
「川、山、田、道、家、人、樹、花、動物、石」を順番に描いてもらい、風景を構成していくもの。1969年に神戸大学医学部神経精神医学講座(当時)の中井久夫教授が考案し、日本国内だけでなく、多方面で発展していった。10のアイテムの後は「何でも好きなもの」を足してもらって絵を完成させ、主に12色で彩色して、絵を完成させる。
その人の内面にある障害や無意識の流れ、意識の動向や家族性、生産性、ユーモアや心の余裕などを読み取るものである。今回は事前と事後に同じように描いてもらった。
結果
【バウムテストの結果】
1) 実の数
明らかに実の数が増えている
→自分の心の中にある「夢」や「希望」、「願い」の数が増えたことを示している

2) 占有面積
明らかに占有面積が増えている
→心の中の活動性が上がり、エネルギー量が増えたことを示している

3) 《個別所見1》

左下に萎縮していた樹木が大きくなり占有面積が増えた
→おびえた気持ちが少なくなり、自分自身をきちんと表現できるようになったことを示している。
4) 《個別所見2》

最初は小さめであった樹木が、一気に大きくなり、占有面積も増えて、幹も太くなりたくましく、内的エネルギーの高まりを示している。
5) 《個別所見3》

樹木の種類が変わり、より実のつけられるものに変わった
→具体的に、自分の願いや希望を再確認できるようになったことを示している
6) 《個別所見4》

そっけないただの「樹」が活き活きとした表情を持った樹木に変わった
→生活の中に彩りが生まれ、心の中に喜怒哀楽がよみがえり、躍動できるようになってきたことを示している
【風景構成法の結果】
1) 使用した色の数
明らかに使用した色の数が増えている。
これは表現力がついてきたことを示している。ケアを受けることで心の中の余裕と力が生まれ、それがよりたくさんの色を使える原動力になったことを示している。「多数の色を使う」ということは実はかなりのエネルギーを要するものであり、その力がついてきたことを示している。

2) 偏りの比率
画面にたくさんのアイテムを置くことは、実は大変難しいことでもある。ましてやそれをバランスよく配置することは子どもたちにとってきわめて難しいことでもある。

当初は描画の構図にどうしても偏りが出がちであるが、それがケアを受けることによって修正され、全体的にバランスのよい構図に変化している。これはすなわち、人間としての出力レベルが一定化してきたことの現れで、それはストレスに強く、対人関係を滑らかにするための力を養えていることを示している。
3) 縦構図の出現比率
縦構図は風景構成法の理解の中で「落ち着きのなさ」「精神的な不安定さ」を示していると言われている。それが、ケアを受けることによって「横構図」となり、精神的な落ち着きや安定感を取り戻すことを示している。
今回、複数に「縦構図」がみられたが、どのグループでも縦構図は無くなるか減数しており、ケアによって子どもたちが安定したことを示している。

4)《個別所見1》

縦構図が横構図に変わった
→視線が移動して、それまでの落ち着かない「斜め」な視線が「平行」になり、より安定した精神状態となったことを示している
5)《個別所見2》

アイテムの数が増えた
→さまざまなことに興味が出てきて、心の中にいろんなものを受け入れられるようになったことを示している
6)《個別所見3》

黒という配色が少なくなった
→「黒い道」はまさに「道路上に障害があること」を示していると思われるが、それが後に灰色や肌色(アスファルトや土の色)に変わって、より現実にあるものの色になっていった。「黒い道」が効率に登場しており、それが「黒くない道」に変わることも、高率に起きている「現象」である。それは、地震によって閉ざされていた道(それは現実の道だったり、人生という“道”だったりする)が開通して、自分の生きている方向性に光が差してきていることを感じていることを示している
7)《個別所見4》

彩色の数が増えた
→心の中の余裕ややる気が表現されている。それまではあきらめや落胆という気持ちが勝っていたものが、後に希望や願いといったものを感じられるまでに回復していることを示している
7) 《個別所見4》

左下に萎縮していた構図が、中央に広がった
→外部からの刺激に対して心を閉ざしていたものが、心を開き、さまざまな刺激やストレスを受け入れられるようになっていったことを示している
おわりに
「心のケア」は目に見えにくいために、どれほどの効果があったのかを提示しにくいという弱点がある。しかししかるべき手法を使えば、その変化は如実に目に見えるものになってくる。
今後も日本国際民間協力会は「心のケア」=「心理社会的ケア(ワークショップ)」を進めていくが、それはこういった評価の裏付けを常に行っていくことで、多くの信頼を得、より効果的なケアを行うことを目指していく所存である。
以上
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